1.「鑑定」と「査定」の違い
不動産の価格を知る方法して「鑑定」と「査定」という二つの方法があります。
「鑑定」と「査定」一字違いですが、この違いがよく分からないという人も多いので、ここでは、それぞれについて説明したいと思います。
「鑑定」は、国家資格者である不動産鑑定士が業として行うもので、法律によって定められた不動産鑑定評価基準にその方法が厳格に定められています。鑑定士が発行する不動産鑑定評価書は、不動産の経済的価値についての公証力を有する書類です。この評価書に基づいて銀行が融資を行ったり、税務申告や裁判の証拠として用いられるものです。
これに対して「査定」は、郵便ポストによくチラシが入っていますが、不動産会社が営業行為の一環として無料で行うものです。査定の方法については、正式な決まりはなく、それぞれの不動産会社の独自の判断によって行われます。自社の取引実績、レインズ等に出ている成約事例及び担当者の経験に基づいて、売却見込価格が出されます。当該地のマーケットに詳しい不動産会社による査定は有力な目安となります。
2.不動産鑑定が必要になる場面
不動産のおおまかな売却見込価格は、無料の「査定」である程度分かるのに、どうしてお金をかけて不動産鑑定を依頼する必要があるのでしょうか。
* 不動産会社による「査定」は、あくまで営業活動の一環として行われています。その最終目的は、その不動産を売り物件として預かって媒介契約を結ぶことですから、契約を取る為に相場よりも高い価格を出すケースもあるようです。複数の不動産会社から、査定を取った場合価格に数百万円の開きが出ることもあります。
* 只、その不動産が世の中に数多くあるようなもの(例えば、造成された住宅地の戸建住宅やマンション等)で、目的が単純に「いくら位で売れそうか?」を把握したいだけならば「査定」で十分です。
* お金を払って不動産鑑定を依頼するケースとして、次のような場合があります。
- 親子兄弟、親族、更には関連会社の間で不動産の売買を行う場合、極端に低い価格で取引を行うと、贈与とみなされ課税の対象となります。公証力のある不動産鑑定を取っておけば、税務申告の際に有力な証拠となります。
- 相続で条件の悪い土地(広大な土地、擁壁のある土地、市街地山林等)は、不動産鑑定で評価額を大幅に下げて、節税が可能となるケースがあります。
- 相続において、相続人の間で、不動産をできるだけ公平に分ける必要がある場合。法廷での争い持ち込まれるケースもあるので、客観性を追求した不動産鑑定が役に立ちます。
- 「隣の土地は借金をしてでも買え」といいますが、特に不動産の価格が高い都市部において、隣地を併合することによって、その不動産の価値が大きく向上する場合があります。価格交渉の叩き台として、併合による増分価値を的確に評価した不動産鑑定が役に立ちます。
- 一般に取引されることの少ないホテル、旅館、ゴルフ場、田舎の太陽光発電用地、病院といった、価格の把握が困難な特殊な不動産を売買する時には、不動産鑑定に基づいて取引価格が決められることがあります。
- 借地権・底地や賃料(家賃)のように、世の中に情報が余り出回っておらず、権利関係が複雑な不動産について、特に地代・賃料改定について裁判で争われる時に不動産鑑定が必要となります。
- また、M&A 等で企業価値の算定を行う場合、保有不動産を担保に銀行から借り入れを起こす場合にも、不動産鑑定が活用がされます。
3.不動産鑑定にかかる費用
上述のように、不動産鑑定が必要となる場合は、その費用対効果において十分な経済的メリットが見込まれるケース、また、金融機関の担保評価や税務申告、裁判における証拠書類といったように制度上、公証力のある不動産鑑定評価書が必要なるケースが中心なります。
一般には余り馴染みのない不動産鑑定ですが、その費用は幾ら位かかるのでしょうか。
鑑定評価は、最終成果物のレベル、責任の重さ(例えば、争い事である裁判向けの鑑定は、一旦評価書を出した後も、追加で意見書を求められたりするので報酬も100万円以上と 高額になります)案件の難易度(類似不動産の取引事例が殆どなく経済的価値の把握が困難な場合等)によってその費用は変わって来ます。
依頼目的、案件の難易度にもよりますが、一般個人の方向けに鑑定評価を行う場合は 20万~30万円辺りの報酬になることが多いようです。
4.不動産の査定とは
上述の如く、不動産の「査定」は、不動産会社が営業活動の一環として行うもので、無料で行われます。因みに、不動産の価格付けを業として行うことができるのは不動産鑑定士だけであり、不動産会社がお金を貰って査定を行うと法律違反となります。
不動産の査定額は「弊社に仲介が行えば、これ位の価格で売却できるでしょう」という売却予想価格のようなものです。勿論、査定額で売却できる保証はありませんし、不動産会社によって査定額にバラつきが生じることがよくあります。査定額にバラつきがでる理由として、媒介契約が欲しいが故に高めの査定を出す会社があること、会社によって得意な市場や得意なカテゴリーが異なることが挙げられます。
ご自身がお持ちの不動産がいくら位で売れそうか単純に知りたい場合には、複数の不動産会社に査定を依頼することが有効です。いつかの不動産会社から出て来た査定額を見比べて、なぜその査定額をつけたのか、大体どの位の期間で売却できそうか等、質問してみるとよいでしょう。会社によってその不動産に対する見方が違ったり、類似物件の取引経験量が異なったりしますが、そのような遣り取りを通じて、自分にとってベストと思える不動産会社が見えてくると思います。
5.不動産の価格はどうやって決まるのか
私達の身近にある財の中で、不動産は最も高額であり、かつ値段が非常に分かりにくいものです。不動産鑑定士そして不動産会社は、不動産の価格をどのようにして決めているのでしょうか。
不動産鑑定士は、法律に定められた「不動産鑑定評価基準」に基づいて不動産の評価(最終的には価格付け)を行います。不動産鑑定評価基準のベースになっているのは、価格の三面性という考え方で、これはあらゆる商品の価格判定に応用することができます。
一般に、私達は商品の価格を考える時に(意識せずとも)三つの側面から考えています。
即ち1. 似たようなものは市場いくらで売られているのか – 比較方式
2.同じものを作ったらいくらかかるのか – コスト積み上げ方式
3.この商品を使用することでどの位儲かるのか – 収益方式
の三つの方式になります。
不動産鑑定士及び不動産会社は、この三つの見方(考え方)がベースとなっている取引事例比較法、原価法、収益還元法を適用することで不動産の値決めを行っています。
- 取引事例比較法(比較方式)
これは、読んで字の如しで、実際に市場で行われた取引事例をもとに不動産の価格の決めるものです。取引事例が比較的入手し易い土地や分譲マンションの価格を決める際によく使われます。
- 原価法(コスト積み上げ方式)
これは、建物価格の査定に使われます。例えば戸建住宅の場合、新しく同じようなものを建てたらどの位かかるのかを求め、そこから経年等によって劣化した価値減少分を控除して現況建物の価格を算出します。建物が老朽化して、経済的な価値が認められない場合は、建物取り壊し費用をマイナスの価格として求めることもあります。
- 収益還元法(どの位儲かるのか)
収益方式(どの位儲かるのか)は、投資用ワンルームマンション、一棟のもの賃貸共同住宅、貸事務所ビル・店舗等の価格を求める際に適用されます。現在の家賃からどの位の収益が上がっているかを求めて、そこから物件の管理費・修繕費・税金・保険料等の費用を控除して、その物件の利回りで割り戻して不動産の価格を求めます。
6.まとめ
よくご質問をいただく「鑑定」と「査定」について説明して来ました。
ご自身がお持ちの不動産の価格を知りたいような場合は、複数の不動産会社から「査定」をとることをお勧めします。
国家資格である不動産鑑定士が発行する公証力のある不動産鑑定評価書を作成するには、費用がかかるので、「鑑定」が求められるのは、費用対効果を考慮して経済的なメリットのある場合、税務申告・裁判・担保評価等、制度上鑑定評価が必要となる場合となります。
上述したように、親族間・関係会社間の不動産取引、相続税関係、隣接不動産取得・売却の場合、殆ど取引が行われておらず価格の分かりにくい不動産、借地権・賃料(家賃)等の裁判が関係する場合等、不動産鑑定がお役に立ちます。
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