AI時代、日本は逆転できるのか?
昨年11月30日、生成AI Chat GPTがリリースされました。現在の私達が就いている多くの仕事がAIに置き換わっていくのではないかと、AIが社会経済に与えるインパクトに関する報道・論説が多く出て来ています。そういえば、1999年に公開された(いまや)SF映画の古典 The Matrix で、機械が人間を支配するようになるきっかけはAIの発明でした。
日本人のDNAの深いところにある真面目さ、手先の器用さ、摺り合わせの技術・協業を活かした垂直統合型のモノ作りでは世界で圧勝することが出来ましたが、第三次産業革命(IT革命)以降 日本で新しい産業が育っていません。いまや、情報通信分野ではGAFAMに完全支配される事となり、1989年以降、30年以上に渡って経済停滞が続いています。
現在、私達は第四次産業革命(AI革命)のとば口に立っていると言われています。IT革命によってガラッと産業構造・企業の序列が大きく変わったように、AI革命で経済・産業のPictureが大きく変革することが予測されます。
IT敗戦を乗り越えて、AI時代、日本は逆転することができるのでしょうか。
この問題を正面から論じた「純粋機械化経済」の一部を紹介したいと思います。小職が頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた本です。
AI時代に日本は逆転できるか
いわゆる大学改革(教育予算の削減+大学間の競争原理の導入)により、研究の現場は疲弊しています。
日本のお先真っ暗感を象徴するジョーク
「入学試験は、一介の高校生がノーベル賞級の研究者に消しゴムを拾わせるチャンスだ」
大学予算削減に伴う人員不足により(実は)大学の教員も、試験監督に狩りだされています。
(こんな愚かなことをしているのは日本だけです)
大学教員の全労働時間に占める研究時間の割合は
2002年 46.5%
2013年 35.0% なんと!
少なくとも理系の研究者は国際的な競争にさらされており、十分な研究時間を確保できないと競争に勝つことができません。
上図(同書5頁):論文数はその国の科学技術力を測る代表的な指標である。
多くの国が右肩上がりに論文数を増やしている中で、日本だけが減っているのは深刻な事態である。
「AI監獄ウィグル」というノンフィクションで詳細に描かれているように、中国のAIカメラを使った行動監視システムは世界の最先端を走っています。
天網 – 中国のAIカメラを使った監視システム「天網恢恢疎にして漏らさず」
2018年 張学友(歌神と呼ばれる人気歌手)のコンサート会場で、無数の観客の中から客席にいた逃亡犯や詐欺師を相次いで発見・逮捕したのは有名な話です。 AI導入による第四次産業革命は2030年頃から始まるといわれています。
覇権を握るのは中国になる可能性が大です。理由は、
① 「リオリエント 」 経済面でヨーロッパが中国を凌駕するようになったのは、1800年を過ぎて辺りからですが、現在経済の中心はアジアへとりわけ中国に戻りつつあります。
② AIを発展させようという政府と民間の貪欲な姿勢から「人権を無視しているから中国は発展している」は一種の負け惜しみである。
中国は巨大なガラパゴスである。ネット鎖国で、アメリカのIT企業が進出しにくかったことがプラスに作用し、ユニークなIT企業を輩出してる。
中国の大学の質は著しく向上している → 精華大学が東京大学を抜きアジアNo.1 に、2018年の中国のAI投資は約4兆円で、世界全体の4分3を占めている。
日本の最後の牙城自動車産業…
自動運転化の進行 → 自動車産業のIT産業化、ソフトウェアが利益を生むようになる。
電気自動車の普及 → 部品点数の激減(10万点から1万点に 1/10)
日本が得意な「摺り合わせ」の技術が不要となる。
人口知能は人々の仕事を奪うか
技術的失業 AIに限らず新しい技術はしばしば人間から雇用を奪っており、そのような失業を経済学では「技術的失業」という。
ラッダイト運動 19世紀初期にイギリスで起きた機械打ち壊し運動
機械の導入による失業に伴って発生した。
下図は著者の井上智洋教授が「この本のエッセンスを一つにまとめたもの」と言っている チャートです。
アメリカでは事務労働が減っている。
AIを含むITが増やす雇用は、ITが奪う雇用よりも基本的に少ない。
アメリカには、デス・バイ・アマゾン(アマゾン恐怖銘柄指数)という、アマゾンによって業績が悪化させられそうな61社から構成される株価指数がある。
ウォルマート、コストコ等 これら61社の従業員数の合計は 約525万人。
アマゾン一社のために失業 or 減給される人々
ITが生み出す雇用は、新しい雇用のうち7%に過ぎない。
雇用を奪われた多くの人は、介護や清掃などの肉体労働に従事する。
労働移動の逆流が起きている
工業社会 – 誰も傷つかない優しい世界だった。運動会でいうなら綱引きや玉入れ
情報社会 – 個々人の実力の差が残酷までにくっきりと浮き彫りになる世界。運動会で言うなら徒競走やマラソン
Average is Over 「平均は終わった」
コンピューターの時代によって生まれた問題は、大量失業ではなく、良質で安定的な中間レベルの仕事が徐々に消えたことだ。
トランプ元大統領とその支持者たちの敵は移民ではなくAIだ。AIを含むITが人々の雇用を奪い、一般的な労働者を貧しくしている。
日本においても事務労働は減少している。
(日本では)終身雇用制の存在自体がITの導入を遅らせている。
どうせ人を解雇できないのならば、人を使い続けた方が安上がり…
多くの人がエアコンの効いた部屋で座って仕事をしたいと願っているが…
2019年1月の有効求人倍率 全業種の平均 1.56倍
一般事務 0.43倍
事務職は、実空間ではなく情報空間での作業が中心となる → IT化にさらされる。
銀行業は、大失業時代を迎える。
雇用の減少が著しいのは、窓口よりもバックオフィス
言葉と違って、数値を扱うのは人間よりもコンピューターの方が得意
それでも残る仕事
C クリエイティブ系(Creativity)
小説を書く、映画を作る、発明する、新商品を作る、研究して論文を書く
M マネジメント系(Management)
工場・店舗・プロジェクトの管理、会社の経営
H ホスピタリティ系(Hospitality)
介護士、看護士、保育士、教育、ホテルマン、インストラクター
紹介は以上となります。技術的失業の辺りは、多くの本で取り上げられているトピックですが、同書では、現在の状況の分析、過去から現在に至る歴史的経緯、更にはこれから何が起きるかも含め、経済学だけでなく哲学・歴史の該博な知識を動員して縦横無尽に論じられています。本文477頁の大著なので通読するのはかなり大変ですが、手に取ってみることをお勧めします。